「星の民のクリスマス」の感想!異世界に迷い込んだ父と娘の切ない家族愛がヤバすぎる

星の民のクリスマス

つらい時、いつも傍らにあった物語。もし、本当にその中で暮らせるなら――。クリスマスイブの夜、たった一人の最愛の娘が家出した。一体どこに? それは六年前のクリスマスに父親が贈った童話の中だった。愛する娘を探すため、父は小説世界へと入り込む。しかしそこは、自らが作り上げた世界と何かが決定的に違っていた……。人は、どうして物語を読むのだろうか? その答えがほんの少し見えてくる、残酷でキュートな愛に満ちたファンタスティックな冒険譚。第25回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

 


主人公の女の子が無邪気で健気で一生懸命で可愛すぎた


父と娘の二人暮らし、お父さんは小説家という職業。4歳の娘はそんな父親の仕事をとても尊敬していて、ずっと自分のために何か物語を書いて欲しいと願っていた。でも面と向かってそんなことを頼めないと考えた彼女はその願いを「あなたからお父さんに頼んで欲しい」とサンタクロースへ手紙を出す。

子供って純粋でいいな〜と序盤の設定読んだ時からすぐに思いました。まだ小さいのにワガママを言うことを躊躇うその健気さに僕は心臓を貫かれたわけですね。カマリちゃん、あんた僕の娘にならないかい?とマジで思ったくらい。お父さんが書く小説がクリスマスプレゼントとか、何だその泣ける設定。

その小説をカマリちゃんは大事に大事にして育っていくわけですが、何かつらいことがあったのか10歳のある日、現実世界から逃げ出したいと一人で家を出て行ってしまう。実際どんなつらいことがあったのか記述はされてないけど、10歳の女の子だからおそらく学校とか友達関係の悩みなのかなと思う。

そしてカマリちゃんは異世界に召喚されるわけですね。それも「お父さんが自分のために書いてくれた物語の世界」へと。大きくなった今もまるで自分の体の一部であるかのように何よりも大切にしていた小説の世界が、彼女にとっては救いの場所だった。自分がいるべき世界はここじゃない、という流れ。

つらいことばかりで何の救いもない殺伐とした現実世界こそが自分にとっては異世界なんだと、カマリちゃんはそう考えたわけです。これって今の時代けっこう当てはまる人いるんじゃないかな。現実逃避って言葉で片付けちゃえばそれまでだけど、生きてて何も楽しくないと思ってる人は多いみたいです。

現実を見ろって言うのも簡単だけど、その現実があまりにエゲつないものだったら向き合うのも嫌になるでしょう。もちろん何もかもから逃げ続けるだけで幸せになんてなれっこないですが、逃げるしかない状況だって沢山あると僕は思うのです。純粋で優しい人ほど、現実世界は生き辛いのかもしれない。

 


もしも自分が作り出した物語の世界に入ってしまったら


この作品のメイン設定でもある「お父さんが考えた世界に娘が行ってしまう」という流れ。この設定自体は特別目新しいものではないかもしれないけど、その娘を追いかけて自分が作り出した世界に父親も入っていくというのが超ドラマチックで、家族愛に満ちた優しい雰囲気を作り出してると思いました。

突然いなくなってしまった娘が「自分が考えた小説の中にいる」なんて、もう追いかけるしかないっしょ!父親として。それを初めて知った時の父親の気持ちはとても複雑ですね。自分がそんなものを書いたせいで大切な娘が、と責任を感じるし、娘と引き離されることになった小説を恨むのかもしれない。

つらい現実世界から逃げるようにして入り込んだ異世界、そこが本来の自分の居場所なんだと信じてやまないカマリちゃん。一方で、そんな娘を追いかけるために自分が考えた小説の中へ飛び込んでいくお父さん。この二人がいったいどんなラストを迎えるのか、そんな切ない設定がこの作品の見所です。

 


サンタクロースが存在しないクリスマスの世界が魅力的


お父さんが書いてくれた小説はクリスマスを題材にしたサンタさんの小説だったはず。でも入り込んだその世界にはサンタクロースという存在はおろか、その概念すら無かった。登場するキャラクターに共通点は見られる物の、細かい設定の部分でだいぶ違う。そんなミステリー要素も面白さの一つです。

その謎が少しずつ解けていくストーリー展開も見事だったし話の筋もしっかり通ってた。決して不思議な力(魔法とか超能力とか)だけで解決しちゃわない、ちゃんと理屈で納得させてくれる骨太なストーリー構成からは高い完成度が見られます。ラストはとても奇麗な終わり方で涙腺崩壊させてくれた。

作品の設定はシンプルなのに、その世界観が独特で細かな設定も作り込みが素晴らしい。キャラクターもそれぞれに個性があって魅力的だし、どの人物もちゃんと印象に残ってる。ライトノベルを真面目な文体で書くとこうなるのかなと感じた作品でした。ライトに読めるのに感動できる僕の大好きな一冊。

 

 


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