「時砂の王」の感想!次にハリウッドで映画化される日本の小説はこれでしょ

時砂の王

西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼を救った「使いの王」は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機械群により地球は壊滅、さらに人類の完全殲滅を狙う機械群を追って、彼ら人型人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。そして3世紀の邪馬台国こそが、全人類史の存亡を懸けた最終防衛線であると。期待の作家が満を持して挑む、初の時間SF長編。

 


人類絶滅フラグが立つ→過去改変して平行世界を救おう!!!


かなり骨太なSFに出会いました。前から気になってたんだけどなかなか読む機会がなくて。先日ふと図書館で目に止まって、そのまま一気に読み終えてしまった感じです。感想としては、超おもしろかったです。タイムトラベルものって話が似たような感じになりがちだけど、この作品はちょっと違う。

タイムリープ系(記憶を保持したまま過去に戻る系)に代表する作品は「バタフライエフェクト」という映画が有名かと思います。それをベースに作られた「シュタインズゲート」ってアニメの方が日本では有名ですかね。これらは両方とも最後までハラハラドキドキする素晴らしいストーリー展開でした。

人が何で過去に戻りたがるかって言ったら「取り返しのつかない過ちをやり直すため」しかないので、基本的には主人公が誰かを救うために何度も過去に戻るというお話になるわけですが、それとはちょっと違った設定やストーリー展開だったので新鮮でした。時間SFの新しいジャンルかもしれません。

どの辺が他のタイムトラベルものと違うかと言うと、まず主人公が救おうとしているのが「個人的な人間」ではなく「人類そのもの」という点。主人公のオーヴィルは人間が作り出した人型人工知性体(要するにターミネーター)なので人間ではない。彼らが作られた理由こそが、人類を救うためなのです。

 

ちょっと人類の存亡を背負って過去にお使い行ってきてくれる?

 

そんな感じで主人公は初めてのおつかいに旅立つわけです。そもそもこの作品、敵が最初にタイムトラベル始めちゃうんですよ。もうそこが新しいですね。敵は謎の機械軍団なんですが、そいつらが人類抹殺のために過去に戻ってあらゆる時代に攻撃をしかけてきます。それを阻止するのが主人公の目的。

 


並行世界を救うために今の時間軸を捨てるとか悲し過ぎ


僕はこの設定にやられましたね。久々に本読んで序盤で泣きそうになりました。過去に戻るということはつまり、歴史そのものを改変するということ。それは結果として今の時間軸ではない別の時間軸に移動するということであり、移動するってことは「もうこの時間軸は諦める」ということでもあるわけです。要するにタイムトラベルを繰り返す度に、その時間軸で生きている人たちを見捨てなければいけない。全てを犠牲にしてでも人類の存亡をかけてハッピーエンドな平行世界を探し求めます。

最初の旅立ちをする時も、主人公はその時間軸の人たちが「もう助からない」と分かっていて別れを告げる。そこには一緒に暮らした恋人や友人、多くの大切な人たち(思い出)が生きていて、でもそれら全てが間もなく全滅する。そんな未来を知りながらも助けられない人たちを残して敵との戦いに出発しなければいけないという過酷な運命。もう二度と会う日は来ないという心の葛藤が辛過ぎました。

 

「また、いつか」彼女の言葉を読み取った途端、胸が強く痛んだ

 

序盤にしてここまで心が張り裂けそうになる展開に持ち込んだのは構成力の高さを感じました。主人公が背負う任務の重さが、読み始めて早々に読者に伝わるこの感じ。様々な時間軸の話があるんですが、その配置が絶妙。読んでみれば分かると思います。先を読み進めていくにつれてどんどん鬱になる。笑

他のタイムトラベルものと決定的に違うのがまさにここ!どうせ最後は過去を変えてヒロインも助けてハッピーエンドになんだろ?とオチがある意味で半分読めているのが他の作品なわけですが、これはもう最初の時点で「大切な人は助からない」という究極の現実を突き付けられて物語がスタートする。

主人公にとって大切な人が助からなかった時間軸に属する全ての人類の希望を背負って、平行世界を生きる別の時間軸の人類を救うために旅立つ。これほど救いようのない悲惨な運命を描くストーリーは珍しいと思います。いや、だって世界平和のために大切な人を見捨てるとか普通に考えて無理でしょ。泣

 


西暦248年の邪馬台国を舞台に卑弥呼ちゃんが大活躍ゥッ!


そんな感じで主人公のオーヴィルは数多の平行世界でその時間軸の人類を救うために戦いまくっていくのですが、最終的に辿り着いた時間軸が3世紀の日本だったわけです。ここが人類にとって最後の防衛戦線。戦いを繰り返しているうちに敵も強くなってしまったので、ここで食い止めなければという展開。

時間SFという近未来な題材でありながら舞台は大昔の日本というこのギャップ。未来人が過去にやって来て三国無双する的な展開ではないですが、イメージとしてはそんな感じ。アナログとハイテクの絶妙な融合は「サマーウォーズ」なんかを思い起こさせますね。ド田舎で人工知能兵器と戦うあれです。

実際の人物を作中に登場させるあたりも本格的な骨太ストーリーを伺わせます。ヒトラーとかスターリンとかも出てくるし。下調べ半端ないな!ってレベルのワードとか設定がポンポン出てきて展開がとにかく目まぐるしかった。卑弥呼が一生懸命に戦う姿を文章から想像して、最後はやっぱり泣きました。

 

そして、伝説へ……

 

主人公の境遇がもはや相当ドラマチックなこの作品ですが、登場人物たちそれぞれの心情にもかなり胸を打たれます。文章で読んでるだけだと読み飛ばしてしまいそうな描写も、映像化したら絶対みんな泣くでしょ!ってレベルの感動が至るところあった。心からハリウッドで映画化されるのを切望します。

たしか最近、日本のライトノベルで初のハリウッド映画化した「All you need is kill」ってのがありました。日本の小説が海外の監督や脚本家の目に止まって映像化される機会がこれからもっと増えそうですね。映像だけで中身のない最近のハリウッド映画よりも日本の小説の方が感動できると思います。

 

 

文章で読んでるだけなのに映像見てるよりも感動できるとか、活字フェチな僕にとっては名作を読みまくる楽しみがあって素敵です。これだから小説を読むのはやめられない。

 

 


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